中学校の影から昇る朝焼け

高校の先生をしているという父の友人が自作のケーキを持ってきてくれた。自分で店を出そうというほどの勢いらしい。細長い白い皿の上にタルト生地に黄色いクリームがまあるくお月様のように見えるさらにその上に細長く切ったパイ生地で籠のようにタルト全体を包み込んである。片方はこんもりと膨らんでいて、格子状になったパイの籠の一本一本が金と銀に色付けされていてお菓子というより金属細工のように繊細だった。その「先生」は私に皿を手渡しながら右の金属細工のような立派な方を指差して「こちらは自信があって、このレベルならそろそろ店も出せるんじゃないかと思っているんです。こっちはちょっと失敗してしまって・・・すみません。」と言う。私が御礼を言って受け取ると、少し寂しそうな顔をしながら「しかしねえ、妻はこの失敗作の味のほうが好きだというのですよ、味も形もね。僕も長い時間をかけてやっと自分の理想に近いものを作れるようになってきたのに、もっと付き合いの長い、僕のお菓子の一番のファンで理解者であるはずの妻にそういわれると、これで良いのか、どちらが良いのか、今ごろになってよく判らなくなってきたのですよ。」と言う。私はかけるべき言葉を失い立ち尽くす。


と言う夢を見た。
今日の夢ははっきり覚えていたなあ・・・。今日の私はお菓子ですか・・・。夢もあの手この手です。
「先生」は父の友人と言う設定でしたが、私が高校のときに現代文を担当していた先生その人のご登場でした。少し偏屈で、でも優しくて、思慮深く、独特のしゃべり方をした、眼鏡をかけている先生。卒業以来一度も思い出したことが無かったような、特に好きでも嫌いでもなかった先生なので何故突然夢に出てきたのだろうと驚いています。こんなウスラバカの頭でも脳味噌は色んなモノを詰め込んでるんですなぁ、本当に。